つなぐ家 について考えたこと
先先代から受け継がれた敷地に2階建の二世帯住宅を建てる計画です。
(二世帯住宅から二世帯住宅への建て替え)
次世代、さらに先の世代へ。
『継承』をテーマに、高性能とデザイン性の両立を目指しました。
そんなYさん家族とご両親が心地よく暮らすために4つのことを考えました。
1)次世代への継承(性能・維持コスト・長期利用)
2)床下エアコンで暖かく過ごす
3)流行に左右されないタイムレスな空間をつくる
4)雑木の庭で心を整える

1)次世代への継承
初めてYさんに相談を受けた時、こう聞かれました。
「これから家を建てたとして、何年くらい住めますか?」
小嶋はこう答えました。
「つくり方次第では100年快適に住むことも可能です」
実際には、時代の変化や受け継ぐ人の価値観に左右されるので、本当に100年住み継がれるかどうかは誰にも分かりません。
ですが、暑い、寒い、住みにくい、修理ができない、維持費が高すぎる、デザインが古臭い等の理由で壊されることはない、そんな家をつくることは可能だと考えました。
欧米では100年住み継がれている家が珍しくないのに、なぜ日本ではスクラップ&ビルドを繰り返してしまうのか?どうしたら100年住める家にできるのかをYさんにご説明しました。
そしてYさんは、自分達の世代だけでなく、次の世代、更に次の世代にとっても価値があり続ける家をつくることにしました。
【次世代への継承に必要な3つの観点】
1. 性能(構造・断熱・気密・パッシブデザイン)
2. 維持コスト(更新頻度、省エネ、創エネ)
3. 長期視点(更新性、タイムレスデザイン)
【性能・仕様】
■ 耐震等級3(許容応力度計算)
■ 断熱性能 UA値 0.41W/㎡・K(断熱等級6)
■ 気密性能 C値 0.22(実測値)
■ トリプルガラス樹脂サッシ(一部ペアガラス)
■ 太陽光パネル13.2kw(子8.8kw 親4.4kw)
■ 蓄電池14.9kw
■ 床下エアコン(暖房時)
■ 軒・庇(南面)
■ 外付ブラインド(西窓)



2)床下エアコンで暖かく過ごす
床下エアコンは、1階の床下空間(基礎の立ち上がり部分)にエアコンの暖気を流し、家全体を暖房する仕組みです。
【メリット】
■ エアコン1台で家全体を温めることができる
■ 床暖房よりも安い(イニシャル・ランニング共)
■ 更新性が高い(いつでもどこでも手に入る)
【デメリット】
■ 高気密・高断熱の建物が前提
(通常の家より断熱・気密コストがかかる)
■ 安心して任せられる設計者が少ない
(経験がない設計者には難しい)
■ 安心して任せられる工務店が少ない
(経験がない工務店には頼めない)
■ エアコンメーカーの保証が受けられない
(使用方法がメーカーの想定外)
床下エアコンは10年程前から、高気密高断熱をうたう工務店に広まりはじめ、最近では床下エアコンの第一人者によるYouTube発信が人気を博し、勉強熱心な建主の方にも知られるようになってきました。
世の中の新築住宅の数百軒に一軒しか採用されていない特殊な方式ですが、今回いくつかの条件が重なり、床下エアコンを導入することになりました。
・施主のYさんが床下エアコンに惚れ込んでいた
・依頼予定の工務店が10棟ほど経験していた
・小嶋に経験がないことやリスクを承知の上での強い要望だった




3)流行に左右されないタイムレスな空間をつくる
適切な維持管理により性能が保てていれば、100年先まで使われ続けるのでしょうか?
性能以外に使われなくなる理由があるとすれば、デザインかもしれません。
こぢこぢを設立する2008年以前から、古い街並み・建物・家具・道具等、時間を超えて愛されるものに着目してきた小嶋ですが、自身の生活でも古い家具や照明を愛用しています。
いつ見ても飽きることがないデザインのものもあれば、素朴な風合いに愛着が増していくものもあります。
いずれ小嶋がこの世にいなくなったとしても、それらのものは別の誰かの手にわたり、愛され続けるでしょう。
時間を超えて長く愛されるものには共通するキーワードを見つけることができます。
【長く愛されるもののキーワード】
■ 普遍的
時代の気分に左右されない本質的なもの・こと
■ スタンダード
長期にわたり皆が認めてきた事実
■ シンプル
理にかなった単純さ、直しやすさ
■ 考え抜かれたもの
誰が考えても行き着く先、本質
■ 人の温もりを感じるもの
ものから滲み出る作者の想い・愛情
■ 経年変化が美しい素材・仕上げ
自然素材、風合い、趣き
Yさんの家では、これらのキーワードを手掛かりに、100年後も愛され続けるタイムレスな空間を目指しました。

オーク

漆喰

レンガタイル
4)雑木の庭で心を整える
雑木の庭(ぞうきのにわ)は、自然の風景を身近に感じられる庭のスタイルで、人の暮らしにさまざまな良い影響をもたらします。
1. 四季を感じる豊かな暮らし
落葉樹をメインに植えるので、春の新緑、夏の木陰、秋の紅葉、冬の落葉といった四季の移ろいを楽しめます。季節の変化を感じることで、暮らしに豊かさや癒しが生まれます。
2. 心と体のリラックス効果
自然の中にいるような感覚を味わえるので、心が癒されます。木々のざわめきや鳥のさえずりを聞くことで、ストレスが軽減され、リラックス効果が高まります。
3. 生態系を育む環境
いろいろな植物を植えることでで昆虫や鳥が集まり、自然の生態系を育む場になります。庭に訪れる生き物と共存することで、自然とのつながりを感じます。
4. 省エネ・快適な住環境
夏は木陰を作り、冬は葉を落として陽光を取り込むため、環境にやさしい暮らしを実現できます。
5. 手入れが自然体で楽になる
雑木の庭は、自然な風合いを重視するため、手入れが少なくて済みます。落ち葉も土に還すことで、庭の自然な循環が生まれます。
四季の変化を楽しみながら、心身を整え、自然との共生を実現する暮らしを目指します。


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次世代への継承をテーマに進めてきた本計画。
50年後、100年後も温かな家族の風景が広がっていることを願い、この家のタイトルを『つなぐ家』としました。
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所在地 東京都大田区
用途 二世帯住宅
構造 木造2階建
敷地面積 372.52㎡
建築面積 131.31㎡
延床面積 197.28㎡
UA値 0.41 W/㎡・K
C値 0.22 ㎠/㎡
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